身近な疑問から始める卒業論文テーマの見つけ方:日常からの発想法
卒業論文のテーマを見つけることは、多くの大学生にとって最初の大きな壁となるでしょう。「何から始めて良いか分からない」「興味のあることが研究テーマになるのか不安」といった不安を抱える方も少なくありません。しかし、研究テーマのヒントは、実は私たちの日常生活の中に数多く隠されています。
この記事では、身近な疑問や体験からどのようにして卒業論文のテーマを発想し、具体的な研究へと落とし込んでいくかについて、ステップバイステップで解説します。日々の気づきを研究の出発点に変える方法を学び、あなたらしい研究テーマを見つける一助としてください。
1. 日常生活の中から「なぜ?」を見つける
研究テーマを見つける第一歩は、日常生活の中で心に留まる「なぜ?」や「どうして?」という疑問を意識することです。特別なことである必要はありません。
1.1. 自分自身の体験や興味関心に目を向ける
- 個人的な経験: バイト先で感じた顧客の行動パターン、サークル活動での人間関係の変化、SNSでの情報拡散のされ方など、あなたが実際に経験したことの中に疑問はありませんか。
- 趣味や関心事: 映画、音楽、スポーツ、ゲームなど、あなたの趣味や関心事に関する現象を深掘りしてみるのも良いでしょう。例えば、「特定のジャンルの音楽が若者に支持されるのはなぜか」といった疑問もテーマの出発点になり得ます。
- 日々の気づき: 通勤・通学中の駅での人々の行動、コンビニエンスストアでの新商品の陳列方法、友人との会話の中で出てくる社会的な話題など、何気ない日常の中に疑問の種は潜んでいます。
1.2. 社会の動きやニュースからヒントを得る
- 新聞やニュース番組、インターネット記事などで報じられる社会問題、経済の動向、文化的な現象などに注目し、それらに対して「なぜこうなっているのか」「どうすれば良いのか」という問いを立ててみましょう。
- 最近話題になっている技術(AI、VRなど)が社会に与える影響や、新しい社会制度(働き方改革、消費税増税など)が人々の生活に与える変化なども、研究テーマになり得ます。
1.3. 疑問を書き出す習慣を持つ
「些細なこと」と感じる疑問でも、まずはメモに書き出してみることが重要です。スマートフォンのメモ機能、ノート、付箋など、形式は問いません。疑問を可視化することで、後から見返したり、関連する疑問と結びつけたりすることができます。
2. 疑問を深掘りし、テーマの「種」に変える
書き出した疑問は、まだ研究テーマとしては漠然としているかもしれません。次に、それらの疑問をさらに掘り下げ、研究の核となる「問い」へと発展させるプロセスです。
2.1. 「なぜ?」「どうして?」「どうすれば?」を繰り返す
一つの疑問に対し、さらに深掘りする問いを複数回投げかけてみましょう。 * 例1: 「コンビニでレジ袋が有料化されたのに、なぜ使い捨てプラスチックの削減が進まないのだろうか?」 * なぜ削減が進まないのか? → 消費者の意識が低いからか? * なぜ意識が低いのか? → 利便性とのバランスが取れていないからか? * どうすれば意識を変えられるのか? → どのような啓発活動が有効か? * この問いから「レジ袋有料化における消費者の行動変容と意識に関する研究」といったテーマの種が見えてきます。
- 例2: 「なぜ若者はテレビを見なくなり、YouTubeなどの動画配信サービスを見るようになったのだろうか?」
- テレビとYouTubeのどこが違うのか? → コンテンツの内容、視聴の自由度など。
- 若者の視聴行動にどのような変化があったのか? → 短尺動画の選好、リアルタイム性の低下など。
- この問いから「若年層における動画コンテンツ視聴行動の変化とメディア選択要因に関する研究」といったテーマの種が見えてきます。
2.2. キーワードを抽出する
疑問を深掘りする過程で、関連するキーワードをいくつか抽出します。これらのキーワードは、後のステップで先行研究を探す際の手がかりとなります。 例:「レジ袋有料化」→「消費者行動」「環境意識」「プラスチック削減」「習慣化」
3. 疑問と学問分野を結びつける
見つけた疑問の種が、あなたの専攻分野や興味のある学問分野とどのように結びつくかを考えてみましょう。
- 専攻分野との関連付け: 例えば、「若者のテレビ離れ」という疑問は、メディア研究、社会学、心理学など、様々な分野からアプローチできます。自分の専攻が社会学であれば、社会構造の変化や情報格差といった視点から考えてみましょう。
- 学際的な視点: 一つの学問分野に限定せず、複数の分野の視点を取り入れることで、より多角的で深みのある研究テーマになることもあります。
4. 先行研究でアイデアを具体化する
疑問の種が見つかり、学問分野とのつながりが見えてきたら、次は先行研究を調べて、その疑問が既にどの程度研究されているかを確認します。
4.1. 先行研究の探し方
- 大学図書館の利用: 多くの大学図書館では、学術雑誌、論文集、専門書などを閲覧できます。司書に相談すれば、効果的な資料検索方法を教えてもらえるでしょう。
- 学術データベースの活用: CiNii Articles(日本の論文)、J-STAGE(日本の科学技術情報)、Google Scholar、Web of Science、Scopusなど、様々な学術データベースがあります。ステップ2で抽出したキーワードを使って検索してみましょう。
- 参考文献リストの確認: 興味のある論文が見つかったら、その論文の参考文献リストを確認するのも効果的です。そこから関連性の高い先行研究を芋づる式に見つけることができます。
4.2. 研究ギャップを見つける
先行研究を読み込む中で重要なのは、「既に何が分かっているのか」「何がまだ分かっていないのか(研究ギャップ)」を把握することです。 * 「この研究は〇〇について明らかにしたが、××についてはまだ不明である」 * 「これまでの研究は△△という視点からのものが多かったが、別の視点(例:特定の地域、特定の年代、異なる方法論)からの検証が必要である」 * この研究ギャップこそが、あなたの研究テーマのオリジナリティと新規性を生み出す源泉となります。
5. 教員や友人に相談し、フィードバックを得る
一人で悩まず、積極的に教員や友人からフィードバックをもらうことも非常に重要です。
5.1. 指導教員への相談
- 漠然とした疑問やアイデアでも構いませんので、早めに指導教員に相談しましょう。教員は、その分野の専門家として、あなたのアイデアが研究テーマとして適切か、どのような先行研究があるか、実現可能性はどうかなど、貴重なアドバイスを提供してくれます。
- 相談する際は、自分の疑問や興味関心を具体的に伝える準備をしておくと、より有意義な議論ができます。
5.2. 友人やゼミの仲間との議論
- 同じようにテーマ探しをしている友人や、既にテーマを決めたゼミの仲間と議論してみるのも良いでしょう。異なる視点からの意見は、あなたの考えを整理し、新たな気づきをもたらすことがあります。
6. テーマ選定の際の注意点
最後に、テーマを選定する上で考慮すべきいくつかのポイントを紹介します。
- 興味を持続できるか: 卒業論文は長い期間取り組むことになります。興味を持続できるテーマでなければ、途中で挫折してしまう可能性があります。
- 実現可能性: 卒業論文は限られた期間とリソース(時間、費用、データ収集の容易さなど)の中で行うものです。壮大すぎるテーマは避け、実際に研究しきれる範囲かを見極めることが重要です。データ収集が難しいテーマ、費用がかかりすぎるテーマなどは注意が必要です。
- 研究の倫理性: 特に人を対象とする調査を行う場合など、倫理的な配慮が必要な場合があります。個人情報の保護、プライバシーへの配慮など、事前に指導教員と相談し、適切な手続きを踏むようにしましょう。
まとめ
卒業論文のテーマは、身近な日常生活の中に潜む「なぜ?」という疑問から見つけることができます。日々の気づきを大切にし、それを深掘りし、学問分野と結びつけ、先行研究を通して具体化していくプロセスは、決して簡単な道のりではありません。
しかし、このプロセスを通じて、あなたは自分自身の好奇心を形にし、知的な探求の面白さを体験できるでしょう。焦らず、一歩ずつ、あなたらしい研究テーマを見つけていくことを応援しています。